読書メモ『イージス・アショアを追う』(秋田魁新報取材班)読了

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この本は、秋田市にある陸上自衛隊の新屋演習場がイージス・アショアの配備場所候補となったことに関する、秋田魁新報社における取材プロセスが克明に記録されたものです。この問題が広く知られるようになったきっかけは、2019 年 6 月 5 日付の『適地調査、データずさん』というスクープ記事で、この記事を含む一連の報道は 2019 年の新聞協会賞を受賞しています。

秋田魁新報『イージス配備、適地調査データずさん 防衛省、代替地検討で』
https://www.sakigake.jp/news/article/20190605AK0001/

ここで「ずさん」とされたデータとは、新屋演習場がイージス・アショアの配備に適していることを説明するために防衛省が作成した調査報告書の中で、候補地と近傍の山との位置関係を示す図に初歩的なミス(恣意的な改変の疑いがある)が含まれていたというものです。この「ミス」が明らかになったことをきっかけとして、地元の反発が急激に高まり、その後の参院選では自民党現職候補が落選、本件に対する態度がはっきりしなかった県知事でさえ「全部最初から、一から、そもそも論から」検討をやり直さなければならないという趣旨の発言をせざるを得なくなりました。

『イージス・アショアを追う』秋田魁新報取材班 著、秋田魁新報社
https://amzn.to/2IdCEne

全部で 299 ページある本ですが、本文は 202 ページまでであり、残りは実際に掲載された記事の転載と関連年表となっているので、資料としての価値もあるように思います。

私自身もあのスクープ記事を読むまで、イージス・アショアの問題にはほとんど関心がなかったのですが、そんな私にとっても非常に分かりやすく書かれていると思いました。その理由は恐らく、取材班がどういう理由で何に着目し、何を疑っていたのか、などが丁寧に書かれていたからではないかと思います。

読み終わったところで特に印象に残ったのは、主に次の 2 つでした。

1. あのスクープが生まれるまでの地道な調査報道にこそ価値があった

私は、スクープというのは他の誰もが知らない情報を入手できたときに生まれるものだと思っていましたが、あのスクープの元になっている情報は既に公開されていたものです。したがって他紙などが先に気づく可能性もありました。しかし、秋田魁新報取材班はそれまで地道な調査報道を続けていたからこそ、この調査報告書が「宝の山」だと認識して丹念に読み込み、説明図の欠陥に気づくことができました。

スクープ記事の掲載に関する経緯が書かれているのは第 5 章(142 ページ目から)ですが、ここにたどり着くまでの間に、取材班がどのような問題意識を持っていたのか、地元でどのような動きがあったか、市民の方々がどのように感じていたか、などが丹念に綴られています。このような背景を知ることによって、あのスクープ記事のインパクトの大きさが改めて分かります。

2. 情報公開に関する日本とアメリカとの違い

政府は県や市に対して、イージス・アショアが日本を守るために必要だと説明していますが(そして今でもこの説明方針は変わっていないと思いますが)、取材班は新屋がイージス・アショアの配備候補地になっていることが判明して以来、早い時期からこの点に疑問を抱いていました。そして調査の結果、米国の政策に影響力をもつシンクタンクが、日本にイージス・アショアが導入されることが米国の安全保障に寄与するという趣旨のレポートを 2018 年 5 月に発表していることを見つけました。このレポートは当時から公開されており、下記リンク先で読めます。

CSIS: Shield of the Pacific: Japan as a Giant Aegis Destroyer
https://www.csis.org/analysis/shield-pacific-japan-giant-aegis-destroyer

導入する側の思惑と思われるものが既に公開されているにもかかわらず、それを認めない日本政府の姿勢と、このような政策提言がオープンに行われている米国との違いがとても対照的に描かれているように思えて、とても印象的でした。

 

これら以外にも、この報道が地元の新聞社だからこそできた部分や、地方紙であるがゆえに苦労した部分などが詳細に描かれており、面白くて思わず一気読みしてしまいました。

なお、この記事を書いている 2020 年 2 月の時点ではまだ配備計画に関する結論がでていないため、本件に関する取材活動もまだ続いています。本書の終わり方が物語のエピローグ的な終わり方になっておらず、まだまだ明日からも仕事が続くぞという感じで終わっているのは、そのような事情が関係しているのではないかと思います。しかしながら本書の最後に、かつて取材に応じてくれた地元の主婦との間のエピソードが置かれているのは、一連の取材活動が地元目線で展開されていることの証左であろうと思います。

本書を読んだ今、私の地元の新聞社も、このような調査報道を行う志やリソースがあるだろうか?と思わずにはいられません。

蛇足ですが、個人的には私の尊敬する柳田邦男先生へのインタビュー記事が載っていたのが、予想外の喜びでした。私が「調査報道」という言葉を初めて知ったのは 30 年以上前、高校生の時に柳田先生の著書を読んだときなので、「調査報道」という言葉を聞くと今でも柳田先生を連想します。そのような私にとっては別の意味でも価値のある本となりました。



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