8 万円くらいあれば社長になれる

私はもともと個人事業主として仕事をしていましたが、ちょっとした事情から法人化することにしました。しかしながら仕事の内容は全く変わらず、従業員を雇う予定もなく、ただ形式を「個人」から「会社」にしたかっただけなので、できるだけお金と時間をかけずに「会社」という形にする方法を調べて実行しました。

せっかくそんな経験をしたので、自分がどのように会社を作ったかを簡単にまとめておきたいと思います。もしかしたら今後同じようなことを考える人にとって何らかの参考になるかも知れませんので。

【前提条件】

  1. 会社の種類はいろいろありますが、私は「合同会社」を選びましたので、以下の内容は「合同会社」を設立する場合の話です。「株式会社」など他の種類を選んだ場合は手続きや金額が若干変わります。
  2. 以下の内容は「会社」という形にするために必要な手続きと費用に絞って書いてあります。実際にゼロから創業する際には、事務所や銀行口座、インターネットのアカウントや Web サイト、パソコン、スマフォなど諸々用意する必要がありますが、私の場合は既に個人事業主として事業を始めていたため、これらは全て揃っていましたので、今回の記事では触れません。
  3. 自分自身を会社の役員として登記するために、自分自身の実印が登録されている必要があります。もし実印の登録が済んでいない場合は、先に現住所の市町村の役所で印鑑登録を済ませる必要があります。
  4. 私自身は行政書士や税理士、社労士などの資格を持っていませんし、このような分野の専門知識や実務経験はありません。

では本題に入ります。

1. 会社の種類と会社名を決める

私の場合、いつかは法人化しようと思っていたので、会社の種類や会社名は既に考えてありました。したがってこれにかかった時間はゼロです。
ちなみに会社の種類を決めるための参考情報は、ちょっとググればいくらでも見つかりますので、ここでは触れません。

2. 会社の実印を作る

会社を登記する際に印鑑(実印)を届け出る必要がありますので、実印として使える印鑑を作る必要があります。私は「ハンコヤドットコム」(https://www.hankoya.com/)で注文しました。
こちらのサイトで、実印として使える印鑑で最も安いのは、薩摩本柘製で直径 13.5mm のもので、3,370 円で買えます。12 月 26 日に Web から注文し、30 日に届きました。
(なおハンコヤドットコムでは「実印・角印・銀行印」の 3 点セットを勧められますが、会社設立に必須なのは実印だけです。)

3. 会社設立に必要な書類のドラフトを作る

これについては「会社設立 freee」(https://www.freee.co.jp/launch/)というサービスを利用しました。これはクラウド会計システム「freee」の関連サービスで、基本機能は無料で利用できます。

このサイトで新規登録を行って必要事項を入力すると、定款や登記申請用書類などが自動で作成され、PDF で出力されます。入力する内容は概ね次のような内容だったと思います。

  • 会社名(商号)
  • 会社の所在地
  • 代表者の氏名と住所
  • 自分のメールアドレス
  • 自分の会社の Web サイトの URL(会社の電子公告を行う方法を示すために必要)
  • 事業内容
  • 資本金の金額
  • 定款の作成日付(私は入力した日の日付にしました)

これらのうち「事業内容」については、既に個人事業主として開業する際に税務署に提出した「開業届」に記述した内容を、ちょっと手直しすれば済んだので簡単でした。

なおサイトで必要事項を登録する際に、定款を紙で作るか「電子定款」にするかどうかを選択する必要があります。電子定款にしておいた方が後々便利ですし、紙の定款を作るためには印紙代が 4 万円かかるというデメリットもあるので、よほどの理由がない限り電子定款にすることをおすすめします。

このへんをネットで調べながら入力しても、おそらく 1 時間以内に入力完了しました。

4. 行政書士に手数料を支払う

前項で入力した内容は、「会社設立 freee」が契約している行政書士に転送され、定款が作成されますが、ここで行政書士に手数料として 5,000 円を支払う必要があります。指定された銀行口座に 5,000 円を振り込み、入金が確認されると作業に着手されます。

入力内容に特に問題がなければ、行政書士によって作成された電子定款が PDF ファイルで届きます。

5. 資本金を払い込む

登記申請の際には資本金が払い込まれたことを法務局に知らせる必要があります。

しかしながらまだ会社設立前ですので、会社名義の銀行口座はありません。そこで代表者(自分)の名義の銀行口座に、資本金として申請書類に記載する予定の金額を入金し、その入金が記録された通帳のコピーをとります(実際には通帳の表紙などのコピーも必要)。

この作業を行うためには資本金額に相当する現金が必要ですが、外部に支払うわけではなく自分自身の財布と口座との間を移動させるだけなので、設立コストには含めないことにします。

6. 登記申請書類一式を用意する

電子定款は PDF ファイルの中に電子署名が含まれているので、ファイルを電子データで法務局に提出するために CD-R にコピーします(USB メモリなどでは不可)。

前述 3. で「会社設立 freee」のサイトに必要事項を入力すれば、登記申請に必要な書類は自動的に PDF ファイルで作成されるので、これをダウンロードして印刷し、所定の位置に個人や会社の実印を捺印します。
また登記申請書類の添付書類として、次の書類を用意します。

  • 個人の実印に関する印鑑証明
  • 上記 5. で入金した通帳のコピー

7. 登記申請書類一式を法務局に提出する

前述 6. で用意した書類一式を法務局に提出します。ここで登録免許税として 6 万円を払う必要があるため、窓口に行く前に 6 万円分の収入印紙を購入し、これを書類一式とともに窓口に提出します。書類を提出すると手続完了予定日のスタンプが押された控えを渡されるので、持って帰ります。

8. 印鑑カード、印鑑証明書、登記簿謄本の交付を受ける

前述 7. で受け取った控えに記載された手続完了予定日以降に法務局に行って、新たに登記された会社の印鑑カードを発行してもらい、登記簿謄本や印鑑証明書を交付してもらいます。
(このときに必要な書類も「会社設立 freee」で自動的に作成されます。)

印鑑証明書と登記簿謄本はこの先の手続きで必要になるので、それぞれ数部ずつ交付してもらう必要があります。ちなみに本稿で説明している、全ての会社に必要な手続きだけでも登記簿謄本が 4 部必要になりますし、会社として銀行口座を作るためにも登記簿謄本や印鑑証明書が必要になりますので、それらを見越して必要数を交付してもらう必要があります。

なお登記簿謄本の交付には 1 部あたり 600 円の手数料がかかります。

一応ここまでで会社が設立できたことになりますが、この会社で事業活動を行うためには、税務署および年金事務所への届け出も必要ですので、この後の届け出についても記載します。

なお、正式な会社設立日は、前述 7. で法務局に書類を提出した日となりますが、以下の手続きを進めるためには登記簿謄本などが必要になるため、前述 8. まで進まないとこの先の手続きはできません。

9. 税務署に法人設立届出書などを出す

所轄の税務署に次の書類を提出します。

  • 法人設立届出書
  • 法人税の青色申告の承認申請書
  • 給与支払事務所等の開設届出書
  • 源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書

なお、法人設立届出書を提出する際には登記簿謄本、定款の写し、設立時の貸借対照表、株主名簿の写しが必要になります。

また、「法人設立届出書」と「法人税の青色申告の承認申請書」については、会社の銀行口座を作る時にこれらの控えを要求される場合があるので、税務署のスタンプが押された控えをもらっておく必要があります。実際には書類を提出する前にコピーをとっておき、窓口で書類を提出する際にコピーの方にもスタンプを押してもらう、という手順でした。

10. 各都道府県の税務事務所と市区町村役場にも法人設立届を提出する

前述 9. は国税に関する届け出なので、都道府県と市町村にも同様の届け出を行います(東京 23 区内の場合は都税事務所に提出すれば区への提出は不要)。このときにも添付書類として登記簿謄本と定款の写しが必要になります。

11. 年金事務所に新規適用届を提出する

全ての会社は社会保険に加入しなければならないため、所轄の年金事務所に新規適用届を提出します。この時に添付書類として登記簿謄本が必要になります。

 

結論

恐らく全ての会社に必要な手続きは以上かと思います。なお本稿では触れませんが、もし従業員を雇用する場合は、さらに必要な手続きがありますのでご注意ください。

ここまでで必要となる費用は次のとおりです。

  • 実印作成: 3,370 円(+ 送料)
  • 定款作成手数料: 5,000 円(+ 振込手数料)
  • 登録免許税: 60,000 円
  • 登記簿謄本交付手数料(少なくとも 4 部必要): 600 円 x 4 = 2,400 円

以上を合計すると 70,770 円となります。

実際にはこれに加えて若干のコピー代や交通費、送料、振込手数料、CD-R メディア代などがかかりますが、それらを加えても 8 万円は超えないでしょう

期間については概ね次のとおりです(電子定款の作成には本来もう少し時間がかかるようですが、今回はたまたま早くできたようです)。

  • 12 月 26 日(木): 作業開始、実印発注、「会社設立 freee」に入力開始
  • 12 月 27 日(金): 電子定款作成完了
  • 12 月 30 日(月): 実印到着
  • (12 月 31 日〜 1 月 5 日は年末年始のため役所関係休業)
  • 1 月 6 日(月): 法務局に書類一式提出
  • 1 月 17 日(金): 法務局にて登記手続き完了
  • 1 月 23 日(木): 税務署、都税事務所、年金事務所に書類提出完了

間に年末年始を挟んだためにロスが発生したのと、1 月 20 〜 22 日に他の予定があって税務署などに行けなかったことを差し引くと、概ね 3 週間程度ということになるかと思います。

そういう訳で、ごくごく大雑把な結論としては、8 万円くらいあれば 3 週間程度で会社を設立できることが分かりました。

(もちろん、本当に大変なのは会社を作った後なのは重々承知しています。)

読書メモ『多井熱』(多井隆晴)読了

最近、無駄なんじゃないかとも思えるくらい自分の専門分野から遠い世界の本も、たまには読むようにしています。

今回読んだ本はプロ雀士(麻雀プロ)が書いた本ですが、得るものが多かったのでメモしておきます。

タイトルは「おおいねつ」と読みます。Amazon kindle で読めます。

著者はプロ雀士として活躍する傍ら、「RMU」(http://www.rmu.jp/)というプロ雀士の団体の代表者を務めておられます。もともとは「日本プロ麻雀連盟」(http://www.ma-jan.or.jp/)の理事だったそうなのですが、事情により別団体として RMU を設立されたとの事で、単に麻雀が強いだけでなく、麻雀業界やプロとしてのあり方などに対して問題意識を強く持ち、かつ発言もされている方です。

この本は「近代麻雀戦術シリーズ」として刊行されていますが、あまり麻雀の戦術とかテクニックの話は書かれておらず、どちらかというとこれからプロ雀士を目指す方々や同業者に対するメッセージが詰め込まれた本で、これからの麻雀業界に対する問題提起や、プロ雀士としての気構え、心がけ、覚悟が綴られています。
(ちなみに「近代麻雀」とは竹書房の麻雀マンガ雑誌です。)

私自身は麻雀をやらない(満貫未満の点数計算ができないので雀荘にも行けない)のですが、プロ雀士としてこうあるべき、という部分は麻雀以外の分野にも通じるところがあるな、と思いながら読み進めました。簡単な例を挙げれば、技術やノウハウだけではなく「見られることを意識しろ」というのは、営業やコンサルタント、講演などにも共通ですし、「課金してもらえる人間になれ」というのも職業を問わず(たとえ会社に勤めていても)求められる考え方なのではないかと思います。

また、著者自身が RMU の代表でありながら、これからは「組織よりも個人の時代」だと説いている部分にも共感しましたし(自分が会社を辞めた身なので当たり前ですが)、「ごまかしの利かない時代になっている」ので技術やノウハウが足りないのがすぐバレて次の仕事が来なくなるというのも、プロの世界ではどの業界でも例外なく当てはまるでしょう。

ちなみにこの本全体を通して私が最も好きなフレーズはこちら。

「後悔しない決断ができた時点で成功しても失敗しても勝ちなんですよ。」

単に雀士だから勝負師だということではなく、様々な経験や苦労、決断をされてきたからこそ言えることだと思います。

 

【書籍情報】

多井隆晴(2018)『多井熱』竹書房(近代麻雀戦術シリーズ)

《Amazon リンク》