今さらのキーボード沼

今さらのキーボード沼

私は随分長いこと Happy Hacking Keyboard (HHKB)を使ってきました。きっかけは、当時勤めていた会社で社員にあてがわれていた PC のキーボードが劣悪だったためで、会社のルールで認められていることを確認した上で、HHKB Lite (日本語配列)を自腹で購入して使用していました。時期ははっきり覚えていませんが、2006 年〜2016 の間です(たぶんこの真ん中くらい)。

その後、大学院で机を持てたのでキーボードが追加で必要となったため HHKB Professional JP を追加購入し、仕事用としてはこちらを主に使ってきました。つまり HHKB 二種類を十数年使ってきたことになります。

HHKB の良さについては、あらためて私がここで言及する必要も無いと思いますが、キーボードに関しては何ら不満がなく、別の選択肢をこれ以上探す必要はないと思っていました。

【沼の入口】

ところが昨年の暮れに Mac mini を購入して 2018 年型 MacBook Pro を引退させたことに伴って、macOS が Sequoia (Version 15.3)にアップデートしたところ、HHKB の配列カスタマイズ用アプリが動かなくなりました。Web で確認したところ、新しい OS に対応するアップデートの予定は無いとのことで、大きな問題はないものの、どうしたものかと思っていました。

そんな私の状況を見透かすかのように、今年の年明けあたりから、YouTube にこんなバナーが度々出るようになりました。

うかつにも、これをクリックしたところ、キーボードに関する動画が山ほど出てきました。既存の製品に関するレビュー動画が多く、それらには全く興味が湧かなかったのですが、つい気になってしまったのは、いわゆる自作キーボード関連の動画でした。例えばこちら。

ここで左右分割型のキーボードの存在を知りました。以前から TRON のキーボードや Microsoft の Ergonomic Keyboard などのように、人間工学を考慮したキーボードがあることは知っていましたが、あんなバカでかいキーボード置けるかよ、と思っていました。ところが、いろいろな方々が自作されている左右分割型キーボードはもっとコンパクトです。これはちょっと可能性があるんじゃないか?と思わされてしまいます。

そしてトドメをさされたのがこちらの動画。書評家の三宅香帆さんは、たまたま『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』という本を衝動買いして以来、YouTube の方もいくつか見ていましたが、まさかこの人も左右分割キーボードを使っていたとは…..

布教されちまいましたよ。

三宅さんは市販品のキーボードを使っておられますが、これはファンクションキーなどもついていてサイズが大きめなのと、キーのタッチがどんなものか分かりません(Amazon で調べたところ、スイッチが青軸とか赤軸とか一応書いてありますが)。

そういうわけで、どうせならと自作キーボードの動画からたどり着いた遊舎工房に行ってみました。

【購入】

自作キーボードに関しては全く土地勘がないので、私の現状と要望を店員さんに伝えて相談しながら選びました。まずベースとなるキットについては、基盤がはんだ付け済で組み立ての手間が少なく、サイズ感が HHKB と同じくらいコンパクトな「7sPro」を選びました。

上の動画で紹介されていた「Keyball」シリーズも気になってはいましたが、カラムスタッガード配列(縦方向が揃っている)に慣れてしまうと、外出先などでノートパソコン本体のキーボードを使いにくくなってしまうような気がして、オーソドックスな配列の中から選ぶことにしました。

ところで、このキットは英語配列なのですが、ここで扱っているキーボードキットの多くは英語配列が前提となっており、日本語配列を前提にすると選択肢がかなり限られるとの事でした。遊舎工房に来た時点では正直そこまでは考えていませんでしたが、かつて Mac を使い始めた当時は英語配列でしたので、まあ大きな問題はないだろうと思いました。

次にキースイッチについては、店頭でキータッチを試せるものだけでも 20 種類くらいあったので迷いましたが、店員さんから「HHKB に慣れているのであればタクタイル型が良いのではないか」というアドバイスをいただき、タクタイル型の中で最も安価だったもの(単価 55 円)を選びました。

キートップについては特にこだわりは無いのでオーソドックスで見やすいものを選びました。お買い上げ総額はこちら。

【組み立て】

組立作業そのものは、説明書や、YouTube で公開されているガイド動画を参考にすれば特に難しいことはないのですが、私が買ったキットではキースイッチを差し込む四角い穴の精度がイマイチで少々苦労しました。組み上げてから PC に繋いで試してみたら、ストロークの途中での引っかかりが若干キツくて、たまに文字が入力されないというキーがいくつかありました。

最初はキースイッチの不良を疑いましたが、基盤からキースイッチを外してみると引っ掛かりが軽くなる(タクタイル型本来のクリック感だけになる)ので、 キツい基盤に無理に押し込んだことでキースイッチが横から押されたのが原因かなと思い、ストロークの感触が悪いキースイッチを一旦すべて外して(全体の 1/3 くらい)、それらが刺さっていた穴を削りました。

削るといっても穴の縁にかかっているメッキ層をはがす程度ですが、削ってはスイッチを差し込んで感触を試す、という作業の繰り返して、それなりに時間がかかりましたし、結構な量の削りカスが出ました。

このようなチューニングの甲斐あって、最終的にはとても感触の良いキーボードができました。なお前掲のレシートには含まれていませんが、キートップやキースイッチを引き抜く工具も購入しており、これが大活躍しました。これがなかったらどれだけ大変だっただろうか、というかキースイッチ壊してたかも知れません。

【キー配列のカスタマイズ】

そういうわけで無事に分割キーボードを使えるようになりましたが、ここで若干の課題が残っていました。

まず、HHKB では Backspace が右上隅にあるので、一文字削除しようとして [`] をタイプしてしまうことと、日本語配列の縦長 Enter キーに慣れてしまったので、Enter のつもりでひとつ上の backspace を押してしまうことによるミスタイプが多発しました。そこで現在の癖に合わせて、backspace を enter に、 [`] を backspace にするというカスタマイズを試しました。

これのおかげでミスタイプが激減しましたが、後述する日本語入力切替の都合上、 [`] の優先順位が上がったことから、このあたりは結局元に戻し、手をキーボードに慣れさせることにしました。

また、買うときに確認するのを忘れたのですが、このキットでは矢印キーを配置することが想定されていません。これは文書作成・編集で多用するので何とかしたいと思い、右下にある通常であれば Alt や Ctrl として使われる部分に左右矢印キーを置くことにしました。しかし上下矢印キーを両方置ける場所が無いので、通常なら右 Fn キーに使われるところを下向き矢印にし、「Fn + 下向き矢印」で上向き矢印として機能するようにしました。なお、一応 HHKB と同じように、Fn + [;] 周辺を上下左右の矢印として使えるような設定もしてあります。

さらに、このキットは英語配列なので Windows での日本語入力切替キーがありません(Mac では昔から cmd + space なので問題なし)。Windows で英語配列の場合は Alt + [`] で切り替えられるのですが、このキーボードでは [`] が右上隅にあるので、切り替え時にいちいち左手薬指 + 右手小指(または薬指)という操作が発生して面倒です。

当初は右 space の右隣(日本語配列の入力切替キーと同じ場所)のキーが「Alt + [`]」となるようなマクロを設定しました。これで日本語配列と同様に使えるようになりましたが、後述のような外出先での使用を考えると、英語配列本来の方法に慣れたほうが良さそうかなと判断し、右 space の隣を Alt に設定して、右手の親指と薬指で Alt + [`] を打てるようにしました。キートップのセットの中に幅広の Alt キーがなかったので、見た目的にはナニですが、操作上は特に問題ありません。

使い始めてから一ヶ月程度経過しましたが、以上に加えて次のようなカスタマイズを加えたところで、今のところ落ち着いています。

  • Fn + backspace で delete (右側 1 文字を削除)
  • Fn + 右手でのテンキー
  • Fn + [C] で caps lock
  • 多用するパスワード 5 種類をマクロとして設定

(図は Fn を押した状態でのキーマップ)

【まさかの外出用キーボード追加購入】

ところで、英語配列のキーボードを使うためには OS 側の設定でもキーボード配列を英語に切り替える必要があります。Mac 側は全く問題ないのですが、Windows のノート PC は外出先でも使うため、物理的なキーボードは日本語配列なのに英語配列で使うことになります。概ね問題なく入力はできるのですが、外出先である程度まとまった量の文章入力が想定される場合には、特殊記号などの配置が違うのはやはり困ります。

かといって外出のたびに OS の設定を切り替えて再起動というのも面倒です(しかも Windows ではキーボード配列を設定する方法が分かりにくい)。そこでノート PC とともに持っていける英語配列のキーボードを探しました。

ところが、持ち運び前提のコンパクトなキーボードとなると逆に日本語配列のものが大半です。タブレットに組み合わせるような小さいものでは英語配列のものもいくつかありましたが、目の前にあるノート PC にソコソコ打ちやすいキーボードがあるのに、それよりも貧相でペチペチなキーボードを繋ぐのも、なんだかバカバカしい感じがします。そう考えると、ノート PC にキーボードが付いているのに、あえて外付けのキーボードを持参するのであれば、PC 本体のキーボードよりもタッチが良いものを選んだほうが良いのではないか?という方向になりました。

今回購入したキーボードを全く同じ構成でもう一セット買うというのも一瞬考えましたが、これは単に基盤が積層されたような構成でパーツむき出しなので、持ち運びには不向きです。

いろいろ考えた挙げ句、英字配列の HHKB を追加購入してしまいました。そういう訳で写真の下がこれまで使っていた HHKB Professional 日本語配列、上が外出用に買った HHKB Professional Hybrid 英語配列です。

【一ヶ月程度での慣熟度】

まず、英語配列そのものに関しては問題ありません。もともと昔から Mac を英語配列で使っており、Apple が日本の教育市場を考慮して日本語配列に切り替えたタイミングで自分も日本語配列に切り換えたので、ある意味もとに戻るだけです。

一方、左右分割というレイアウトに関しては若干の慣れが必要でした。左右を別々に置くため配置の自由度が高いので、置き方が悪いとミスタイプが増えます。特に角度を自分の手の角度に合わせてちょうどよく傾けることが重要です。

また、最初に手をホームポジションに置く(人差し指を F と J に合わせる)という動作を丁寧にやらないと、一体型のキーボードよりもミスタイプが増えます。特に私の場合、もともと右手の動作が雑で、特に薬指、小指の範囲でのミスタイプ(前述の enter や backspaceなど)が多いので、以前よりも右手を丁寧に使うこと(例えば読点を必ず中指で、句点を必ず薬指で打つ、など)を意識するようにしています。

そういう訳で若干の慣熟走行が必要でしたが、一ヶ月程度使い続けた現在では、概ね問題なく使用できるようになっています。これのおかげで肩こりがどのくらい減ったかは分かりませんが、キーボードが分割されているために肩や胸が開くので、結果的に猫背が減りましたので、体にとっても良い方向に行っていると思います。

私の場合はもともと沼りやすい性格ということもあって、自作キーボードを選択しましたが、気軽に変える市販品でも分割キーボードはありますので、多くの皆様に左右分割キーボードをお勧めしたいと思います。さあ皆さん、こちら側に来ましょう。

 

【日本語入力の切り替え方法の改善】

通常は Alt + [`] で日本語入力の ON/OFF を切り替えますが、「英語入力」を追加することによって、Window キー + space で「日本語入力」と「英語入力」とを切り替えるという方法を教わりました。

Mac の Command キーが Windows では Windows キーになるので、結果的に Mac でも Windows でも全く同じ方法で日本語入力の切り替えができるようになりました。超便利。なんで今まで知らなかったのか。

情報源は下記 YouTube です。大変ありがとうございます。

(2025.2.25 追記)

 


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2017 年 5 月 12 日現在のエディタ環境

結局テキストエディタがどうなったかというと、

  • Mac OSX: CotEditor に戻った
  • Linux (Ubuntu): medit
  • Windows 10:サクラエディタ

こうなった最大の理由は、Atom の重さがだんだん気になるようになってきたから。

Mac ではそうでもなかったのだが、Linux はそもそも Mac の使い古しだからもともと厳しいし、Windows も(こちらはさほど古いマシンでもないはずなんだが)意外と重くて、日本語入力がイチイチ引っかかる(キーストロークから文字の表示までに微妙な間が空く)のが、だんだん酷くなってくるような気がした。

一方で LaTeX の方は BibTeX のコンパイルまで latexmk で一発でできるようになったので、エディタを含めて統合的な環境を用意する必要が無くなった。それなら OS ごとに最も軽くて使いやすいエディタを使えば良いわけで、Mac はすんなりもともと使っていた CotEditor。Linux は 3 種類くらい試して medit が機能的にも必要十分で使いやすいように思えた。

再び難儀したのが Windows でのエディタ選び。Web で調べて人気のありそうなやつをいくつか試してみたが、Sublime Text はエディタと日本語入力との間でフォントサイズが合わなかったのが致命的で使用を断念(原因不明)、Notepad++ は日本語テキストのワードラップがおかしい問題がどうしても解決できず、結局国産のサクラエディタに落ち着いた。インターフェイスといい見た目といい、昔の Windows のフリーウェアっぽい雰囲気がプンプンしていて印象が悪かった(というか、なかなか使おうという気にならなかった)が、割り切って使い始めたら、軽くスムースに使えるし、機能も自分にとっては必要十分だし、仕事用と割り切って使うには合理的かなという感じがしている。できれば別ウィンドウを開く機能があれば文句ないんだが。

テキストエディタを全面的に乗り換えた話

今年 1 月の転職を契機に検討を始め、昨日ようやく結論が出た。結果的に結構な長旅になったので、この辺でまとめておこうと思う。結論から書くと、Mac / Windows / Linux とも Atom に落ち着いた。

検討を始めたきっかけと検討候補

昨年まで勤めていた会社では PC へのソフトウェアのインストールが制限されていたが、1 月に転職し、現在の会社ではソフトウェアのインストールに制限がないことが分かったので、どうせなら使いやすいエディタを探して使おうと思った。
しかし、そもそも Windows のソフトウェアに全く興味がなく、Windows のエディタをほとんど知らないので、Web でいろいろ探しているうちに、どうせなら Mac と Windows 両方で使えた方がいいし、ちょうど 1 月に、大学院に置いてある古い MacBook Pro に Linux を入れたので、3 つのマシンで同じエディタが使えるといいな、などと欲も出てきた。
そして Mac / Windows / Linux に対応している無料のエディタ、というだけで候補は次の 3 つに絞られた。

  • Atom (何にも考えずに使える普通の GUI テキストエディタ)
  • Vim (20 年以上前に UNIX でプログラミングする仕事で常用してたので慣れてる)
  • Emacs (全く未経験)

ある程度使ってみないと分からないので、とりあえず 3 台に全部インストールしてしばらく使ってみることにしたが、Emacs は環境整備さえ上手くできれば LaTeX での作業が劇的に楽になるらしい、という捨てがたい魅力があったので、この時点では Emacs が本命になってた。

結論にたどり着いた経緯

先人の知恵を Web で探しまくって 3 台のマシンに Emacs と Vim をインストールして、日本語が使える状態にし、Mac と Linux に関しては YaTeX が使える状態まで持っていった。すっかり Emacs をメインにするつもりになっていたが、ここまでできたところで、Atom のプラグインで LaTeX が便利に使えるようになるらしい、という記事をたまたま見つけた。

そもそも Atom は多少カスタマイズがいろいろ出来るエディタ、という程度の認識で、LaTeX に対応してるなんて夢にも思ってなかったので、全く調べてもいなかった。
試しにやってみたらあっさり成功。最初からこれにしていれば良かった。やっぱりこういうのは変な先入観を持たず、初期段階でしっかり調査すべきだと改めて思った。

負け惜しみ

結果的には壮大な回り道をしたが、今まで使ったことのなかった Emacs を使えるようになったし(ついでに環境設定のしかたも分かったし)、Mac で Homebrew を使えるようになったし、勉強になったので、今回の長旅にかけた時間は無駄ではなかった。




Emacs 操作方法メモ

ソコソコの頻度で使う割には、なかなか頭に入らないけど CheatSheet に載ってない操作方法のメモ(必要に応じて随時更新)。

Windows 10 でスリープしなくなったノートパソコンへの対処法

備忘のために、自分にしては珍しく Windows の話題など。

職場で使用している Panasonic Let’s Note(CF-SX3)は、もともと Windows 8 がプリインストールされていたマシンに Windows 10 をインストールし直したものらしいが、シャットダウンしても電源スイッチのランプが消灯しないとか、ディスプレイを閉じてもスリープしないで電源が切れる(しかも正常にシャットダウンされない)という不具合に、出張先で気づいた。

どうしたものかと思って Google 先生に訪ねたところ、解決に繋がりそうな情報を見つけたものの、本当にこれを実行してよいのかどうか確証が持てなかった。

これら 2 つのページで書かれている方法は概ね同じで、つまり Intel Management Engine Interface Driver を Windows 8 時代のバージョンにダウングレードし、これが今後 Windows Update で更新されないように設定する、というもの。しかもダウンロード元の Intel のサイトを見ると、説明の意味をほとんど理解できない上に、対応 OS に Windows 10 が入ってない。

Windows NT 4.0 以降はデバイスドライバに手を出したことがなかったので、この作業のリスクがどのくらいかも分からず、さすがにこれは実行しようかどうか迷った。しかし同じ情報が 2 つのサイトに書いてあるし、Windows 10 新規インストール用のメディアも手近にあることも確認できたので、最悪の場合インストールし直しになることも想定して実行してみたところ、無事解決。Windows でこの手の作業は久しぶりだったので、ちょっと緊張した。