音楽の現場におけるコロナウイルス感染に関するリスクアセスメント結果の要点(フライブルク音楽医療研究所の論文から)

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以下に記述する内容は、フライブルク音楽医学研究所(注 1)の Claudia Spahn 教授らが発表した論文『RISK ASSESSMENT OF A CORONAVIRUS INFECTION IN THE FIELD OF MUSIC』(5 月 19 日改訂版)の英訳版(注 2)から、自分が関心のある場所をピックアップしたものです。

自分自身の作業時間や英語力との兼ね合いと、原著者の翻訳権の観点から、全訳は行わず、自分自身の活動と関連が深い部分のみ、スピード重視で要約と意訳を行っています。したがって正確さについては責任を持てませんのでご了承ください。

Introduction (まえがき)

この論文は、感染拡大防止に関する政府や保健当局などによる規則は全ての音楽家に適用されるという前提で、音楽の現場における判断のための、より具体的な情報やガイダンスを提供するために書かれている。(3 ページ)

この論文には、2020 年 5 月 5 日にバンベルク交響楽団によって行われた実験(注 3)を元にした研究の結果が含まれている。この実験における計測はTintschl BioEnergie- および Strömungstechnik AG といった企業に委託された。(4 ページ)

1. Transmission Pathways of SARS-CoV-2 (SARS-CoV-2 の感染経路)

これまでの研究から、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は飛沫(droplet)またはエアロゾル(aerosols)を通じて感染しうることが知られている。接触感染も起こりうる。ロベルト・コッホ研究所の研究では、コロナウイルスの RNA を含むエアロゾルが、感染者が吐いた息のサンプルか、感染者がいた部屋の空気から検出されている。また、唾液や気道内分泌液(respiratory secretions)も感染の媒体となる可能性がある。(8 ページ)

2. Specific Risk Aspects in the Field of Music (音楽の現場における具体的なリスクの観点)

2.1 Systemic Possibilities for Risk Reduction in the Field of Music (音楽の現場におけるリスク低減のための体系的な可能性)

b.) Parameters of Room & Space / Air & Ventilation / Duration (部屋・空間、空気・換気、時間のパラメーター)

これまでの疫学的知見から、部屋、空調、および人の集団にさらされている時間の長さが、感染リスクに対して決定的な(decisive)影響があると考えられている。(12 〜 13 ページ)

歌や演奏が閉じた空間で行われる場合、定期的かつ徹底的な(thorough)換気が、リスク低減の重要なファクターとなるようである。空調装置による換気は、エアロゾルからの感染リスクを減らすと推測される。(13 ページ)

エアロゾルは、たとえ窓が閉まっていても、おおよそ換気回数(注 4)0.5 〜 2/h 程度の自然換気によって除去される。例えばコンサートホールなどの空調装置(HVAC)については、換気回数はおおむね 4 〜 8/h である(注 5)。(13 〜 14 ページ)

リハーサルを短時間(例えば 15 分程度)(注 6)にし、換気のための休憩を入れることは、恐らくリスクを低減させる。(14 ページ)

2.2 Vocal and Instrument-specific Risk Assessment (歌唱および楽器に特化したリスクアセスメント)

2.2.1 Vocal (歌唱)

一般に、飛沫はサイズが大きいので最大でも 1m 以上飛ばずに落ちる。これが日常生活において最低 1.5m 離れろというルールの根拠になっている。声に関する生理学的知見から、発声によってこれを超える空気の動きは起こらないと考えられている。これは最近バンベルク交響楽団で実施された計測でも確認された。破裂音や摩擦音のような子音を伴う強いアーティキュレーションにおいて、わずかな乱気流は見られたが、歌手から 2m 離れた場所では空気の動きは検出されなかった。したがって強いアーティキュレーションであっても、2m 離れれば飛沫感染を防止できると考えられる(注 7)。(16 ページ)

今のところ、歌唱中のエアロゾルに関する科学的研究は行われていないが、基本的に、休んでいる時や話す時と同様に、歌唱によってウイルスを運ぶエアロゾルが生成されると想定すべきである。歌うときに息を深く吸うことによって感染リスクがどのくらい高まるかは、まだ科学的に調査されていない。(17 ページ)

いくつかの異なる合唱団で、リハーサルや宗教的行事の後に新型コロナウイルスの感染が何度か報告されている。これらの例でエアロゾル感染が疑われているが、他のファクターが影響している可能性もある。(19 〜 20 ページ)

とても広い部屋を使うか、こまめな換気を行うこと、適切な空調を用いることが、エアロゾル感染のリスクを低減するために重要である。リハーサルは 15 分以内に区切って、休憩時間に換気を行うことも、リスク低減につながる。飛沫感染をなくすために、ソーシャルディスタンスを保つルールを合唱においても守り、休憩時間にはフェイスマスクを付けるべきである。休憩時間においても、手の接触や、楽譜の配布などにおける接触を避けるよう注意すべきである。(20 ページ)

2.2.2 Wind Instrument Playing (管楽器の演奏)

フルートを除けば、唇やリードの振動で音を発生させるため、歌唱に比べると単位時間あたりに吐出される空気の量は少ない。バンベルク交響楽団における最新の計測もこれを裏付けている。(22 ページ)

金管楽器およびリードを使う木管楽器では、口と楽器との間から空気が漏れないため、演奏による直接的な飛沫感染は発生しない。(22 ページ)

フルートでは、空気が演奏者の口から環境へ直接吐き出されるため、飛沫が飛ぶ可能性があるが、バンベルク交響楽団における計測では、2m 離れた場所で空気の動きが検出されなかったので、これだけ離れていれば飛沫感染が発生する可能性はとても少ない。(23 ページ)

管楽器の内側では呼気が凝結して水になるため、呼気に含まれるエアロゾルはかなり減少する。感染者の楽器のウォーターキイから排出される水には、ウイルスが含まれている可能性がある。ただしこの水にどのくらいの量のウイルスが含まれるかは計測されていない。(23 ページ)

物理的な推測として、管楽器の内側にエアロゾルの粒子が付着することによって、環境に排出されるエアロゾルを減少させるフィルターの役割を果たす可能性があるが、その効果は計測されていない。(24 ページ)

明確な証拠がない限りは、透明な保護具や密に織られた絹布を金管楽器のベルの前に置くことを推奨する意見もある。木管楽器のベルを覆うような方法は、途中のキーホールから空気が漏れることから、効果的ではない。(24 ページ)

演奏者が息を深く吸うことによって感染リスクがどのくらい高まるかは、まだ科学的に調査されていない。(24ページ)

我々の知る限り、管楽器の演奏による呼気中のウイルス濃度を計測した例はない。また、管楽器の中を通ることによってウイルスがどのくらい減るかも分かっていない。(25 ページ)

最新の計測結果から、我々が 4 月 25 日に示した最初のリスクアセスメントで述べたような 3 〜 5m という距離をとることは不要であり、最小の距離としては 2m で十分であると考えられる。この距離が守られれば、飛沫感染が発生する可能性は非常に低い。(25 ページ)

管楽器の中に溜まった水を捨てるときは、床に落とさず、容器に集めるか紙に吸収させることを推奨する。楽器の中をクリアにするために息を吹き込むべきではない。(25 ページ)

管楽器の中に溜まった水に触れる場合や、ホルンなどで管楽器の内側に触れる場合は、手を清潔に保つよう、石鹸を使って 30 秒以上手を洗うなど、特に注意が必要である。(25 〜 26 ページ)

2.2.3 Other Instruments (その他の楽器)

鍵盤楽器を演奏する場合は、演奏前に必ず(石鹸を使って、必要に応じて消毒液を使って)手を少なくとも 30 秒洗わなければならない。加えて、鍵盤も演奏前後にクリーニングクロスを使って消毒すべきである。(28 ページ)

弦楽器や打楽器も含めて楽器の受け渡しや共有は避けるべきである。(29 ページ)

アンサンブルなどで管楽器を演奏しない音楽家は、エアロゾル感染のリスクを低減するために、フェイスマスクなどを装着すべきである。(29 ページ)

3. Risk Management (リスクマネジメント)

効果的なリスクマネジメントは通常、結果が生じる可能性に関する詳細なリスク分析と、リスク低減のための手法の効果に関する知識を必要とするが、新型コロナウイルスの感染に関しては不明な点が多いため、現時点ではリスクマネジメントは未知数の多い方程式となっている。これらの未知数によって、ゴールに対する期待の違い(感染者率 vs. 音楽文化の維持)や個人の態度の違い(リスクを犯すか、リスクを避けるか)が生まれる余地ができている。全ての個人が、自分がどの程度リスクを犯すかを自分自身で決める権利を持つべきである。我々は科学者として、これらの未知数をできるだけ既知の変数に変えていく手助けをしたい。(32 ページ)

現時点では科学的に確認された知見が不十分なため、我々はリスクを過小評価するのではなく、過大評価する方向に間違えなければならない。この方法で、リスク低減策を組み合わせることによって、総合的な感染リスクを可能な限り小さくできる。しかしながら、「ALARP」の原則(As Low as Reasonably Practicable :合理的かつ実行可能である限り低く)によって、定量化できない残余リスクが存在し得ることを明確に指摘しなければならない。

以上

【注釈】

  1. Freiburger Institut für Musikermedizin https://www.uniklinik-freiburg.de/musikermedizin.html
  2. Spahn, C. & Richter, B. (2020). RISK ASSESSMENT OF A CORONAVIRUS INFECTION IN THE FIELD OF MUSIC. (Swope, S. & Moss, K., Trans.). Retrieved June 13, 2020 from The Hochschule für Musik Freiburg website: https://www.mh-freiburg.de/fileadmin/Downloads/Allgemeines/engl._Risk_AssessmentCoronaMusicSpahnRichter19.5.2020.pdf
  3. Bamberger Symphoniker: Wissenschaftler messen Aerosolausstoß: https://www.br.de/nachrichten/bayern/bamberger-symphoniker-wissenschaftler-messen-aerosolausstoss,Ry6T6OU?UTM_Name=Web-Share&UTM_Source=Link&UTM_Medium=Link&fbclid=IwAR3lagiezP-3hkxx8Y27PCrkK6Qxtsv-gTUKR0z_E1ONIQ41ess8ZwjP2iY
  4. 「換気回数」とは、自然換気や空調などによる 1 時間あたりの空気の流入量(体積)を、その部屋の容積で割った値です。1 時間の間に換気を行う回数だと誤解されることがあるのでご注意下さい。
  5. この部分に関しては「vis」をどう訳していいか分からず、訳にイマイチ自信がありません。原文は次のようになっています。「Aerosols are removed by way of natural ventilation vis the exchange of air in the range of approx. 0.5–2/h even with closed windows; for HVAC, e.g., in concert halls or performance halls, the air exchange rate is approx. 4-8/h」
  6. 時間に関してはロベルト・コッホ研究所から 4 月 16 日に発表された論文に記述があるようですが、まだ読んでいません。…..っていうかドイツ語なので(以下略)。
  7. 4 月 25 日に公開された前版においては 3 〜 5m 程度離れることを推奨していましたが、現在はそこまでは必要ないとの結論に達しています。

 


本資料はクリエイティブ・コモンズ 表示 – 継承 4.0 国際 ライセンスの下に提供されています。
This work is licensed under a Creative Commons Attribution-ShareAlike 4.0 International License.



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音楽活動にかかわる新型コロナウイルス対策関連情報(随時更新)

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公的ガイドライン

 

各種団体などによるガイドライン類

 

論文や報告書

 

実験など

 

解説記事

  • 日経ビジネス『緊急事態宣言解除「現状で確実に言えること」を専門家に聞く – 分子ウイルス学、免疫学研究者・峰宗太郎氏インタビュー(その1)』(山中 浩之)(2020/05/27)
    https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00164/052600001/
  • 日経ビジネス『専門家に根掘り葉掘り!新型コロナの薬・ワクチン・検査 – 分子ウイルス学、免疫学研究者・峰宗太郎氏インタビュー(その2)』(山中 浩之)(2020/05/28)
    https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00164/052700002/
  • 日経ビジネス『神風は吹かない、でも日本は負けないよ – 分子ウイルス学、免疫学研究者・峰宗太郎氏インタビュー(その3)』(山中 浩之)(2020/05/29)
    https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00164/052800003/

 

 



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反省会(田園都市フィルハーモニー管弦楽団 第 16 回定期演奏会 2018.10.7)

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エキストラで参加させていただいた田園都市フィルハーモニー管弦楽団での演奏会の録音をいただいたので反省会など。
最近は録音の CD ができる前に電子データで録音を聴けることが多いので、演奏した時の記憶が薄れる前に聴けて良いですね。



「大学祝典序曲」と「幻想序曲『ロミオとジュリエット』」では 1st を担当させていただきました。いずれも少ない練習回数で急ごしらえではありましたが、メンバーの皆様に致命的な迷惑をかけずに一人分の役目を果たせたという意味では及第点かなと思いました。
「大学祝典序曲」は当日のリハーサルで裏打ちと噛み合わず慌てたところがありましたが、本番では問題なく無難に進行 (^_^) 。全体的にバランスも悪くなく、でしゃばり過ぎていないがちゃんと聴こえているという感じですが、欲を言えば Trb. セクションとしてのまとまりはイマイチな感じで今後の反省点かなと思いました。

個人的に最も難しかったのは『ロミオ〜』で、本番当日までいろいろ不安が拭えませんでしたが、始まってみると本番で最も楽しめたのはこの曲だったかもしれません。練習で一度も間違えなかったところで凡ミスやらかしましたが(14:02 付近)、いきなりフォルテで一発出るところも、変則的なリズムで普段だったらビビりそうなところも迷わず行けた不思議な感覚がありました。これはおそらく結構飛ばしてた金管セクションの皆様のサウンドと、練習段階から始まっていた金井先生の雰囲気づくりのおかげだったのだろうと思います。ある意味、金井先生の術中にうまくハマれた感じがします。
そう思うと前述の凡ミスと、最後の最後でタイミングを探ってしまったのが残念でなりません。最後の音は金井先生とオケの間合いをつかめなかったために一瞬迷いました。あれは迷わずキメたかったところでした。

ドヴォルザークの交響曲第 8 番では普段めったにやらない 2nd を担当させていただいたので、そもそも自分がうまく 2nd にハマれるのかという不安が若干ありましたが、本番までには何とか 1st に追随して自分の居場所を見つけることができました。
録音を聴いてみると Bass Trombone が意外とワイルドに鳴らしてたので(本番中は隣がこんなに鳴っているとは感じていなかった)、もうちょっと自分も鳴らすべきだったかなとか、まだまだ周りを聴けてないないな、などと反省しましたが、まあ全体的には悪くなかったのではないかと思いますし、数少ないメロディラインにはそれなりにメッセージを込める的な吹き方もできたので、自分自身も楽しめた本番でした。

金井先生の棒楽しかったなぁ。


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Trombone 基礎レッスン(2016.1.17)

今日は意外な展開があったので、久々にレッスンの状況を記録しておこうと思う。
前回(2016.1.9)の Euphonium でのレッスンにおける先生との会話の中で、Trombone の時も現在 Euphonium で使っているマウスピース(Art’s Opus)を使ってみたらどうかという気付きがあった。現在 Trombone で使っている Walküre HY7 は高音域でのミスが少なく、唇周りの筋力的に楽な反面、若干の窮屈さを感じるようになってきた。使い始めた当初は気にならなかったのだが、最近は息が入りにくいと感じることも増えた。



そこで今回のレッスン(Trombone)では最初から Art’s Opus を使ってみた。最初の音階練習から全体的に安定して吹けた(むしろ Euphonium の時よりも安定していた)。リップスラーでも全体的にムラなく鳴りやすかった。Melodious Etudes では高音域が若干苦しかったが、唇の上下方向の力を強めにして、その圧力に負けないように腹筋で息の圧力を上げるようにしたら、キツい中でもそれなりに高音域が出るようになった。
レッスン後の四重奏でも引き続き同じマウスピースで通したが、キツいながら 1st パートを吹ききれた。音色もかなり変わり、Walküre の時よりも合わせやすい音色になったという評価だった(自分では自分の音色が分からないので、2nd パートにいた先生からの評価)。あとはオーケストラの合奏で使い物になるかどうか、次回の合奏でテストしたいと思う。
ここ数年、吹き方が進歩するにつれてマウスピースとの相性が変わるので、なかなか落ち着かなくて困るが、今回の変化については、マウスピースに頼らずにアンブシュアを自分で作ることを、従来に比べたら意識できるようになったということではないかと思う。


反省会(会社オケ 2015.10.4)

演奏会本番ライブ録音 CD が届いたので個人的反省会など。

  • 演奏会の幕開けの音を外した。たいして難しい音ではなかった(F#)が、冒頭から 4 小節間くらい全然音がハマらなかった。原因はおそらく昼食の量。おにぎり 1 個少なくすべきだった。あの時もさほど沢山食べた訳ではなかったが、リハーサルと本番で腹の中の状況が違いすぎて、腹筋に力を入れた時の圧力のかかり方が変わったのだと思う。この感覚を修正するのに 4〜8 小節かかった。腹筋での支えを重視する吹き方になった分、この辺の感覚が若干シビアになったのかも知れない。
  • ダッタン人では遂に最後まで滑舌の悪さが改善できなかった。今後の課題。
  • ダッタン人の終盤はステージ上で感じてた以上に崩壊してた。自分が休みの間に既に崩壊に向かって走り始めていて、自分にはどうする事も出来なかったが、あれは無いなぁ (^_^; 。
  • チャイコフスキーでは存在感で Tuba に負けた感じがする。音量の問題ではなく鳴り方。力みが入って音が細くなったかも知れない。ダッタン人でも音量を上げようと思ったあまり自滅した箇所があった。指揮者から音量を求められても、場合によっては間に受けずにスルーすることを真面目に考えなければならないかも知れない。
  • チャイコフスキーの第 3 楽章は、録音を聴いた限りでは、自分の音も意外とソレっぽい雰囲気に聴こえる。こういうのはちょっと嬉しい。
  • Trb. セクションとしてハーモニーを聴かせたいところで、自分の音だけが目立ちすぎているような気がする(特にチャイコフスキーの第 4 楽章)。パート練習を重ねれば何とかなったのか、もしくは音色の問題なのか、これも解決したい課題。