本書は、2020 年 5 月に twitter で広まったハッシュタグ「#検察庁法改正案に抗議します」を作った方が、広告代理店に新卒入社してから、いかにしてフェミニズムに目覚め、そして前述のハッシュタグに至ったかを、自らの手で語った本です。
たまたまポリタス TV で本書のことを知り、kindle で即買いし、2 日間で(読書の遅い私にとっては)あっという間に読み通してしまいました。
本書に書かれている内容は、主に著者が企業に入社した後から 2020 年末に、前述のハッシュタグが twitter トレンド大賞で第 2 位に入賞するまでの、おそらく 10 年弱くらいの話ですが、著者はその期間の大部分を、自分が差別されていることを自覚せずに過ごされています。その間に経験した様々な苦労や不満、不快な経験、挫折などが、かなり具体的に描かれていますが、これらが性差別とか、構造的な問題であったことをあまり認識されていなかったようです。
これは、現在の著者がフェミニストであることを知った後で読んだ私にとっては、とても意外でした。もっと以前から性差別や、著者の言うところの「おじさん社会」に対して具体的に不満を持っていたのかと思っていたのですが、そうではなかったのですね。
しかしながら、あえてこれらの問題を認識していない時の目線で、当時の経験が具体的に描かれることで、今でも同じような境遇の(つまり構造的な問題の犠牲になっていながらそれに気付いていない)人が世間には大勢いらっしゃるのだろう、ということが生々しく想像できました。
読み物としては、著者がフェミニズムに出会い、様々な活動を始めた後のほうが面白いかも知れません。そういった観点からは、前半部分はクライマックスのための布石というか伏線のようにも見えます。しかし五十代前半男性の自分にとっては、前半部分の方がいろいろ考えさせられる内容だったと思います。
本書の前半部分は、いかに「おじさん社会」に組み込まれた女性が様々な局面で苦労を強いられるか、そしてそれに対して男性がいかに無自覚か(もしくは意図的に無視しているか)、いろいろな観点からの問いかけの連発でした。私自身、会社員時代を思い出しながら、いろいろ考えさせられました。
かつて私が企業に勤めていた当時でさえ、社内でハラスメント防止教育などがあったくらいですので、現在では企業内でもジェンダー平等に関する研修など、ある程度行われているのではないかと思います(そうあってほしい)。本書の前半部分は、そのような研修でのケーススタディのための教材として、ほぼそのまま使えるのではないかと思いました。
私のような中年男性や政治家、今まさに構造的な問題から抜け出せなくて苦労されている方々など、多くの方々に読んでいただきたいと思える本です。この本を読むことで、これらの問題の深刻さや、問題を生む構造を変えていく必要性があらためて分かるとともに、「フェミニズム」に対する印象や考え方も変わるかもしれません。
……と思って先ほど Amazon のレビューを見たら、批判的なレビューが本当に酷いですね。
まあだいたい話題になる本のレビューというのは、高評価と低評価が極端に分かれるものだと思いますが、批判的レビューの内容をちょっと見たら、「ああこの人達には伝わらないよなぁ…..」と遠くを見つめる感じになりました。難しいですね。
【書籍情報】
笛美(2021)『ぜんぶ運命だったんかい――おじさん社会と女子の一生』亜紀書房