先日、所属しているオーケストラの定期演奏会があったのですが、演奏会で配布されるプログラムのなかで、ホルストの組曲『惑星』の曲目解説を私が担当することになりました。当楽団のプログラムで曲目解説を書かせていただくのは、2019 年に演奏した「展覧会の絵」以来、2 回目となります。
演奏するのは「火星」と「木星」だけなので、これら 2 曲の解説を、1,300 文字程度で書くことになったので、試しに ChatGPT に投げてみました。
まずは無料版の GPT-3.5 で、依頼したときの文章はこちら。
アマチュアオーケストラの演奏会で、G. Holst の組曲『惑星』から「火星」と「木星」を演奏するので、演奏会のプログラムに掲載する解説文を、1300文字程度の日本語で、「だ・である体」で作っていただけますか?
これに対して出力された回答は次のとおりです。
はい、かしこまりました。「だ・である体」での解説文を以下に作成いたします。
G. Holstの「惑星」は、20世紀初頭にイギリスの作曲家によって作曲された組曲である。この組曲は、太陽系の7つの惑星に捧げられた7つの楽章から構成され、それぞれの楽章は、それぞれの惑星の神話、特徴、または影響を表現している。今回はその中でも、「火星」と「木星」の2曲を演奏することになっている。
まず、「火星」であるが、この曲は激しい戦争と破壊のイメージを表現している。第一次世界大戦中に作曲されたこともあり、作曲家自身が「戦争に関する何かが私を支配しているようだ」とコメントしている。強烈なパーカッション、厳しい管楽器のフレーズ、そして壮大な和音は、人々が戦争で味わった恐怖や苦痛を表現している。この曲は、現代音楽に大きな影響を与え、映画音楽の世界でもよく引用されている。
次に、「木星」であるが、この曲は穏やかな幸福感と希望を表現している。神話上の「木星」が人々に豊穣や繁栄をもたらす力を持つというイメージを表現しており、美しいメロディーが繰り広げられる。合唱の美しい歌声が加わることもあり、聴衆に心地よい感覚をもたらす。この曲は、テーマ音楽としても広く知られており、様々な映画やTV番組に使用されている。
この2曲は、非常に異なる印象を与えるが、それぞれが人々に深い印象を与える作品である。惑星の世界を音楽で表現したこの組曲は、宇宙や神秘に興味を持つ人々にも愛されている。ぜひ、音楽の力で惑星の世界を体感していただきたい。
実際には依頼文を多少修正しながら何度か試したのですが、何度やり直しても文字数が 600〜700 文字くらいにしかなりません。もしかして半角換算(古い…..)なのかと思って「2600 文字程度」と指示してみましたが変わりませんでした。
これはもしかして無料版だからなのか?と思って、有料版にアップグレードして、GPT-4.0 で試してみました。同じ依頼文で出力された結果がこちら。
アマチュアオーケストラの演奏会において、20世紀初頭に作曲された英国の作曲家グスターヴ・ホルストの代表作『惑星』の組曲から、「火星」および「木星」の二つの惑星が取り上げられます。この組曲は、当時まだ新しかった印象主義や象徴主義の手法を取り入れながら、星占いに基づく7つの惑星が持つ神秘的な性格を音楽で表現しようと試みたものであり、その独創的なアイデアと力強い楽曲構成によって、今日でも広く愛されています。
第1曲「火星」は、組曲の冒頭を飾る壮大な曲であり、「戦争を司る神」を意味するマーズの名に相応しい、荒々しくも力強い音楽となっています。重厚なリズムが特徴で、5/4拍子で進行する行進曲のような形式が、戦争の緊迫感を緻密に描写しています。特に、金管楽器や打楽器の緊迫感ある響きが、戦場の情景を感じさせるような迫力を持っています。また、音楽の途中で現れる静かな部分は、戦争の一時的な休息を表すかのようで、そこから再び力強い音楽へと展開される様子は、戦争の激しさを際立たせています。
一方、第4曲「木星」は、組曲の中でも特に人気が高い曲であり、「知恵を司る神」を意味するジュピターの名にふさわしい、豊かな音楽性を持っています。この曲では、明るく楽し気な主題が織り交ぜられる中、緩やかな中間部には、荘厳で感動的な旋律が現れます。この旋律は、後に「威風堂々」として独立した楽曲となり、英国の愛国歌としても親しまれています。また、弦楽器の美しい響きや木管楽器の軽快な旋律が、木星の豊かさや活気を見事に描き出しており、聴く者を魅了してやまないでしょう。
ホル
なぜか出力される文字数があまり増えません。しかも最後が「ホル」で止まっていて、いかにも途中で止まってしまった感じです。ただし生成された文章は、情報の密度が若干濃くなり、表現も工夫されているような印象を受けます(なぜか「だ・である体」という条件は無視されていますが)。
このあと何度か、依頼文をいろいろ変えて試したのですが、どうしても文字数の問題は解決せず、最後が途中で切れるような出力にしかならなかったので、「火星」と「木星」とを別々に依頼して、あとでニコイチにすることにしました。
ここではとても書き切れないような試行錯誤を経て、ChatGPT による出力結果の中でベストと思われた文案がこちらです。
イギリスの作曲家グスターヴ・ホルスト(1874-1934)は、オペラ、室内楽、合唱曲など幅広いジャンルの音楽を手がけたが、その中でも最も有名であり、世界中のオーケストラの定番曲として愛されているのが、組曲『惑星』である。本作は、1914年から1916年にかけて作曲され、1918年に初演された。この組曲は、7つの楽章から構成されており、それぞれが太陽系の惑星を表現している。
ただし、当時まだ未発見であった冥王星(1930年発見)は含まれておらず、また、地球も主題としては扱われていない。ホルスト自身は占星術に興味を持っており、各惑星が持つ占星術上の性格や意味を音楽的に表現した。それぞれの楽章は独立した作品としても演奏されることが多いが、今回の演奏会では、「火星」、「木星」の2曲を取り上げる。
「火星、戦争をもたらす者」という全称で知られるこの楽章は、ホルストが第一次世界大戦の勃発直前に作曲したものである。楽章は5/4拍子のリズムによって特徴付けられ、この不規則なリズムは軍隊のマーチを想起させ、戦争の緊張感と衝撃を効果的に表現している。また、強烈なリズムに乗せた重厚なオーケストラの響きは、聴衆に強烈な印象を与える。
楽曲の中には、ホルストの革新的なオーケストレーション技法が随所に見受けられる。特に彼が駆使する金管楽器の使い方は、音楽の劇的な効果を高めている。このオーケストレーションは、その後の映画音楽に大きな影響を与え、特にエピックやSF映画のスコアにその影響が見て取れる。
「火星」は、その激しい音楽的描写から、時には戦争や闘争の象徴ともされる。しかし、ホルスト自身は戦争賛美の意図はなく、むしろ戦争の恐ろしさや悲劇性を音楽を通じて伝えようとしたとも考えられる。この視点から、「火星」は戦争の現実を率直に描き出す音楽とも言えるだろう。
本日の演奏会で取り上げる「木星」は、組曲の中で4番目の楽章であり、「木星、喜びをもたらす者」という副題が付けられています。木星は、古代ローマ神話における神々の最高神であり、雷神であるユピテル(ゼウス)を象徴しています。この楽章は、神々の王である木星の持つ権威と喜びに溢れる性格を表現しています。
「木星」は、その華やかな管弦楽法と独特の旋律で知られており、組曲全体の中でも最も人気のある楽章のひとつです。総奏で始まる壮大な序奏の後、トランペットによる力強い主題が登場します。この主題は楽章全体を通して繰り返され、楽器や編成が変化しながらさまざまな表情を見せてくれます。
中盤には、イギリスの民謡に影響を受けた美しい旋律が現れ、ホルストの愛国心を感じさせます。この部分は、後に『アイ・ヴォウ・トゥ・ジー・マイ・カントリー』という賛美歌に編曲され、イギリス国内外で広く歌われるようになりました。
楽章のクライマックスでは、壮大な総奏が再び現れ、力強い主題と美しい旋律が絡み合って盛り上がります。最後に再び力強い主題が登場し、華やかなフィナーレを迎えます。
これで 1,220 文字です(また文体の指定が無視されている)。
まあ何となくソレっぽい文章になってはいますが、この文案には致命的な問題が 2 つあると思いました。
1 つ目は、ホルストは占星術に興味を持っていたものの、この曲と神話に登場する神々との関連についてはホルスト自身が明確に否定していることです。巷にはこの曲と神話の神々との関連を語っている Web サイト(主に占星術系)が多数あるので、その辺から学習してしまったんだろうと思います。
2 つ目は、「火星」が「その後の映画音楽に大きな影響を与え」たかどうかが良く分からず、確認のしようがないと思ったことです。何度か出力させたうちの別のバージョンには、「ジョン・ウィリアムズの『スター・ウォーズ』の音楽には、この「火星」からの影響が見られる」とまで書かれていました。まあそうかも知れませんが、裏が取れないので、ちょっとこれは書けないな、と思いました。
このような状況から全面的な修正が必要だと判断し、ChatGPT から出力された他のバージョンからも「いいとこ取り」しつつ修正して、最終的に提出した文案がこちらです。
イギリスの作曲家グスターヴ・ホルスト(1874-1934)は、オペラ、室内楽、合唱曲など幅広いジャンルの音楽を手がけたが、その中で最も有名であり、世界中のオーケストラで広く演奏されているのが、組曲『惑星』である。本作は 1914 年から 1916 年にかけて作曲され、1918 年に初演された(ただしこれは私的な機会での演奏であり、正式な初演は 1920 年)。この組曲は次の7つの曲から構成されており、今回の演奏会ではその中から「火星」、「木星」の 2 曲を取り上げる。
1. 火星、戦争をもたらす者
2. 金星、平和をもたらす者
3. 水星、翼のある使者
4. 木星、歓楽をもたらす者
5. 土星、老いをもたらす者
6. 天王星、魔術師
7. 海王星、神秘主義者
なおホルスト自身は占星術に興味を持っており、1913 年に友人に宛てた手紙では「それぞれの惑星の性格が私に多くを語りはじめました」と書いている。また曲順が天文学的な位置関係と異なり「火星」から始まるのも、占星術から影響を受けている可能性がある。しかし一方でホルスト自身は、それぞれの惑星と同じ名前を持つ古代神話の神々との関連を否定しており、占星術などから先入観を持たれることは望んでいないようである。
第 1 曲「火星」は強烈なリズムと重厚なオーケストレーションが特徴である。曲の冒頭では弦楽器に対して、弓を裏返して木の部分で弦を叩く「コル・レーニョ」という奏法が指示されており、これが迫りくる戦争の緊張感を効果的に表現している。曲全体が 5 拍子で支配されている中で、同じような音形が執拗に繰り返されながらクライマックスを迎えるが、勝利や歓喜を想起させるものは全く現れず、戦争には勝者などいないということを暗示するような絶望的な響きでの幕切れとなる。
第 4 曲「木星」は、その華やかなオーケストレーションと独特の旋律で知られており、組曲全体の中で最も人気のある曲のひとつである。特に中間部の緩やかな 3 拍子の部分は、後に『我は汝に誓う、我が祖国よ』(I vow to thee, my country)という賛美歌に編曲され、戦没者追悼記念日(Remembrance Day)をはじめイギリス国内外で広く歌われている。日本では 2003 年に、シンガーソングライターの平原綾香がこの部分に独自の歌詞を付けた『Jupiter』が大ヒットしており、これを契機としてホルストの『惑星』を知ったという人も多いであろう。
この曲は「火星」とは対照的に、明るく陽気で躍動感のある旋律で始まり、拍子やテンポを変えるたびに新たな主題が現れる。全ての主題はまずホルンで演奏されるので、まるで「全てのお楽しみはホルンから始まる」とでも言わんばかりの構成だが、楽しいことをホルンが全て独占している訳ではなく、様々な楽器が、その楽器らしい楽しみ方でこれらを引き継いでいく。これらはホルストの見事な作曲技法によって、絡み合いながらクライマックスに向けて展開されていき、全員で歓びを分かち合いながら華やかなフィナーレを迎える。
結局、8 割くらい修正(もしくは書き直し)しましたので、ほとんど原形を留めておりませんし、全て自分で書き起こすのと同じくらい時間と労力がかかりましたので、ChatGPT を使う意味があったのか?という感じもします。しかし少なくとも次の 2 点については ChatGPT の案を採用したので(細部は修正しました)、それなりに意味はあったという事にしたいと思います。
- 「火星」におけるコル・レーニョ奏法に関する記述(別バージョンから借用)
- 「木星」が「I vow to thee, my country」として歌われていること
なお全面的に修正/書き直しをするにあたり、下記の参考資料以外にも様々な Web サイトや書籍にあたったり、あらためてスコアをあちこち読んだりしたので、いろいろ勉強になって良かったと思います。特に解説にも書いた「全てのお楽しみはホルンから始まる」というのは今回初めて気付いたことでした。ちょっと流行らせたいと思っています。
余談ですが、いろいろなパターンで文案を出力してもらった後にお礼を伝えたときのリアクションがこちら。
なかなかよく出来てると思いませんか?
(参考資料)
- (株)全音楽譜出版社『オイレンブルク・スコア ホルスト 組曲《惑星》』(解説:Colin Matthews/三橋圭介訳)
- (株)ソニーミュージックエンタテインメントの CD『ホルスト:組曲「惑星」』(Leonard Bernstein / New York Philharmonic)(SRCR 1626)(解説:近藤憲一)