うろ覚えですが、私が初めて MMT(現代貨幣理論)という理論の存在を知った記事(どこで読んだのかも覚えていません)には、多少不正確かもしれませんが次のようなことが書いてありました。
「銀行が顧客に 1 万円を融資する時に、1 万円の現金を用意する必要はなく、ただ顧客の預金通帳の残高を 1 万円増やせばよい。」
私にとってはとても衝撃的でしたが、でも確かに言われてみればその通りだ、とも思いました。この記事を目にして以来、いつかは MMT についてちゃんと勉強しなければと思っていましたが、ようやく経済の苦手な自分にも理解できそうな本を見つけました。
本書は次のような三部構成になっていて、MMT とは何かを理解するためには、とりあえず第一部だけ読めば十分だと思います。分量にして全体の 4 割くらいです。
- 第一部 MMT の貨幣論
- 第二部 MMT の政策論
- 第三部 MMT から見た日本経済
私の場合は第一部を読み終わった時点で、「ああ MMT ってそういうものだったのか」という実感がありましたし、いろいろ誤解があったことも分かりました。
私にとって最大の誤解は「現代貨幣理論」という言葉の意味にありました。私はてっきり、昔と違ってお金の有り様が変わった(例えばクレジットカードとか電子マネー、QR コード決済、ビットコインなど)ので、そういう新しい取引形態に合った新しい理論が必要だ、という事かと思っていました。ところが MMT の根本は、(私の理解が間違っていなければ)紀元前から使われていた貨幣の目的や機能から考え直したことでした。
子供の頃に、「お金はなぜできたのか」というような本をどこかで読んだと思うのですが、こういう本で説明されていたのは、物々交換が不便だから、それに代わるものとして貨幣が誕生した、というような話だったと思います。全部うろ覚えです。
MMT はそこから否定します。古代メソポタミアでは「割り符」と呼ばれる債務証書が取引に使われており、これが貨幣としての役割を果たしていたことが分かっているそうです。そして、どうも物々交換よりも昔から割り符による商取引が行われていたらしいのです。
このような歴史的事実を踏まえて、MMT では貨幣の起源は「債務証書」だと考えています。これは私にとっては根本的な発想の大転換ですが、本書を読んでいくと納得できます。ここまで読んだ時点で既に目からウロコが落ちまくりです。
こんな調子で論理展開していくと、次のような考え方が導かれます。この記事では途中のプロセスを書かないので、これだけ読んでも理解不能だと思いますが、本書ではこれらを私でも納得できるように書いてあります。
- 国民がその国の通貨を持ちたがるのは、その通貨で納税しなければならないからだ
- 自国通貨を発行する政府は債務不履行にならないから、自国通貨建ての国債をいくら発行してもいい(ただしインフレになりすぎないようにするためには限度がある)
- 全ての経済主体(家計、企業、政府など)が全て同時に黒字になるのは原理的に不可能だから、家計や企業が黒字を維持するためには政府の財政は赤字になるのが正常な状態
第二部以降は政策論であり、正直言って私にはついていけない部分が多いので、かなり読み飛ばしましたが、それでもいくつか納得できた話がいくつかありました。例えば税金について、MMT では税金の機能を次の 4 つだと考えています。
- 通貨の購買力安定を促進する
- 所得と富の分配を変える(累進所得税、相続税)
- 悪い行動を防止する(酒税、タバコ税、環境税など)
- 特定の公的プログラムのコストを受益者に割り当てる(ガソリン税、高速道路料金など)
そして、これらに当てはまらない消費税、法人税、社会保障税を全て「悪い税」と考えています。巷で MMT 論者の方々が消費税増税に反対されているのは、ここに理由があったのかと納得できます。
私自身は政策論には疎いので、本書に書かれているような MMT に基づく政策論が正しいのか(日本にとってプラスになるのか)は正直よく分かりません。しかしながら、現在日本経済でみられる現象が、MMT を使ったほうが合理的に説明できるという部分はかなり納得できました。
そういう訳で、第二部、第三部の内容は半分も理解できておりませんが、MMT に関してかなり理解した気分になることができたので、良い本だと思います。
【書籍情報】
島倉原(2019)『MMT〈現代貨幣理論〉とは何か 日本を救う反緊縮理論』 角川新書