小説なんて普段全然読まないし、前に読み終えた小説が何だったか、何年前だったか全く思い出せないような私が、面白くてグイグイ引き込まれて一気に読み終えてしまいました。
エンジニアとして「(株)K エンジニアリング」に入社した「私」(小野さん)は、些細なきっかけで「会社の不利益になる人間」と見なされ、人事部に左遷されて採用担当となります。これを機に「私」は会社への復讐として、「会社の不利益になる人間」となる人を採用し続けることを決意するのですが、大量の就活生の中から「会社の不利益になる人間」を見極めるときの判断基準として「私」が使うのが、顔面の黄金比です。
舞台となっている「(株)K エンジニアリング」は、絵に描いたような伝統的日本企業で、こういう企業に勤める二十〜三十代の女性が直面しそうな出来事が、リアルかつ皮肉たっぷりに描かれています。それなりにデフォルメされているとは思いますが、企業の採用担当者の本音トークみたいな部分もあり、リアルさとユーモアとのバランスが絶妙だと感じました。
あまり詳しく書くとネタバレになるので詳細には触れませんが、人事部に左遷されてもエンジニアとしての矜持を持ち続ける「私」のキャラクターが本書の魅力の源なのではないかと思います。スルスル読んでいけるテンポ感と、味わいのある描写との相乗効果が魅力的で、何とも言えない読後感が印象的な本でした。
【参考 1】『黄金比の縁』刊行記念インタビュー 石田夏穂「人間が人間を選ぶことの胡散臭さ」
https://www.bungei.shueisha.co.jp/interview/ogonhinoen/
【参考 2】私がこの本を買うきっかけになった「ポリタス TV」の動画(31:57 以降)
【書籍情報】
石田夏穂(2023)『黄金比の縁』集英社