元旦に映画「この世界の片隅に」を見た。
いろいろな事を考えさせられながら見たのに、後味のいい、心に沁みる映画だった。
私はできるだけ予備知識抜きで映画を見たいと思っているので、この作品については、戦時中の広島が舞台であることと、能年玲奈(のん)が主演であることくらいしか知らなかった。そもそもこの映画を見ようと思った動機は、「どうも能年玲奈が前に所属してた事務所と揉めて、テレビに出られなくなった上に本名まで使えなくなったらしい」という馬鹿みたいな話を聞いて、能年玲奈を応援したかっただけだ。だから映画の内容なんて正直言って二の次だった。
しかし生活の描写がすごく自然なのにリアルだし、すずさんが自分とは全然違うキャラなのに程よく感情移入してた(と後から気づいた)し、この時代に生きていた事もないのに何の違和感も感じずに最後まで見てしまった。なんとも不思議な映画だったと思った。アニメにしろ実写にしろ、こういう映画って今まで見たことなかった(って偉そうなこと言うほどたくさん見てないけどな)と感じつつ、どのへんがユニークだったのかイマイチ分からなかった。
ところが見た後で、こんな記事があった事を知った。読んだら全て合点がいったような気がした。
日経ビジネス ONLINE インタビュー『「この世界の片隅に」は、一次資料の塊だ – アニメーション映画「この世界の片隅に」片渕須直監督(前編)』
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/interview/15/230078/120600064/
日経ビジネス ONLINE インタビュー『「本来は、アニメは1人で作れるものです」 – アニメーション映画「この世界の片隅に」片渕須直監督(後編)』
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/interview/15/230078/120600065/
つまり、たぶん今まで私が見た映画とは比較にならないくらい、徹底的にディテールにこだわっているのだ。しかも一次資料を追いかけまくって、事実がどうだったのかを追求している。当時の服装や街並み、すずさんの家の場所、高射砲の流れ弾が届きそうな範囲まで検証されている。「神は細部に宿る」とはこういう事を言うのか。
印象的な場面はいくつもあった。例えば終戦が近くなってきて呉への空襲が増えてきた頃に、「七月○日 ○時 空襲警報発令」「○時 空襲警報解除」「七月×日 ×時 空襲警報発令」…というようなリストが延々と続くシーンがあった。我々は既に 8 月に広島に原爆が投下されることを知っているから、なんだか原爆投下に向けたカウントダウンのようで気が気でなかった。あのリストもきっと記録に基づいて書かれていたんだろうと思う。他にも書きたいシーンは山ほどあるんだが、いずれにしても、事実に裏打ちされた迫力が伝わってきたのだと思う。
もちろん能年玲奈(のん)も素晴らしかった。私はほとんどテレビを見ないので、彼女がドラマとかでどういう演技をしていたのか全く知らないが、もはや「すずさん」はこの人でないと表現できないと思えてしまう。もうテレビなんか出なくていいから、映画とか舞台とかで頑張っていただきたい。
ところで、この映画の製作にとりかかるのがビジネスとしていかに難しかったか、下記リンク先の記事を読むとよくわかる。こういう、売れ線じゃないけど良い映画を、これからも見られるといいんだが。
日経ビジネス ONLINE インタビュー『映画「この世界の片隅に」に勝算はあった?』
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/interview/15/284031/120100018/