久しぶりに演劇の魅力を体感できた「アンチフィクション」

劇団 DULL-COLORED POP第 22 回本公演「アンチフィクション」を観てきました。

今回この舞台を観に行ったのは、単純に演劇を観たかったのはもちろんですが、様々な行動に制約が課される状況のなかで、いかに面白い演劇を実現していくのかという、挑戦の現場に立ち会いたかったという理由もあったように思います。

つい先日、新宿の某劇場で感染者のクラスターが発生しましたので、よりによってこんなタイミングで……と思いましたが、某劇場では主催者の感染防止策がかなり杜撰だったらしいという話もあり、そのへんはダルカラなら(というか谷さんなら)大丈夫だろうと考え、もし会場に入ったときに対策状況がひどいと思ったらチケット代を捨ててでも即座に引き返すつもりで、シアター風姿花伝に向かいました。

もちろん、それが全くの杞憂であったことは会場に着いてすぐ分かりました。入り口では非接触型体温計による検温が行われ、受付入り口には靴底の汚れを吸着するマットが置かれていました(これは私も初めて見ました)。客席は椅子が一つおきに間隔を空けて配置され、最前列も舞台前縁から 2m くらい離されていました。

また、劇場やコンサートホールではあまり空調の音が客席に聞こえないように配慮されるものですが、今回は常に空調の音が耳に入るくらい、空調を強めにかけていたと思います(私はさほど気にしませんでしたが)。それに加えて、換気のために一旦台本から離れて観客と対話する時間が設けられました。感染防止対策を徹底しなければならない状況を逆手に取って、面白い趣向だと思いました。

 

ところで、今回の演目は「作・演出・出演・照明操作・音響操作 谷賢一」となっているので、感染防止対策のために全部自分一人でやることにしたのかと思いましたが、劇場支配人との対談(下にリンクを貼りました)によると、これらを全て一人で行うという趣旨の企画書を出したのは、新型コロナウイルスの流行が問題になるより前の 1 月頃だったとの事でした。当初の企画は「作家が次々とフィクションを生み出していき、どんどん新しい幻想が生まれていく…..」というものだったと、会場で配られた「ごあいさつ」に書かれていましたが、逆にフィクションが書けなくなった作家の姿に大きく方向転換されています。

内容については、ネタバレを避けるというよりも、私の陳腐な表現力で中途半端に記述されるのは迷惑だろうと思いますので、具体的な記述は控えますが、新型コロナウイルスの影響下で全くフィクションを書けなくなって行き詰まった作家の苦悩を、私の期待や想像を遥かに超えるレベルでリアルにさらけ出した舞台でした。

 

このところ予約していたいくつかの舞台がキャンセルになってしまい、観劇からしばらく遠ざかってしまいましたが、久しぶりに他のお客さんと同じところで笑ったり、周りのお客さんの緊張感が伝わってきたり、といった小劇場ならではの雰囲気を、あらためて体感しました。

シアター風姿花伝ではこの公演に間に合うようにオンライン配信のための設備を導入したとの事なので、オンラインでもあらためて観てみようと思っています。個人的にはやはり劇場で生で観たほうが面白いだろうと思ってはいますが、別アングルのカメラから見るなど、配信ならではの面白さが発見できる可能性もありそうです。

 

【劇団公式情報】
第 22 回本公演『アンチフィクション』 http://www.dcpop.org/vol22/

【YouTube】
DULL-COLORED POP 第 22 回本公演「アンチフィクション」特別対談 vol.1 那須佐代子 × 谷賢一
https://youtu.be/zFhLd_QfWGM

同 vol. 2
https://youtu.be/GbV3GSkSm0E